「ミニ・アイガー北壁」。
そんな呼び名を聞いたら、アイガー北壁に憧れる人なら、一度は登ってみたくなるのではないでしょうか。この日挑戦したのは、グリンデルワルト近郊にあるロートシュトック(Rotstock, 2663m)のヴィア・フェラータ。難易度そのものは決して高くありませんが、アイガー北壁と同じ岩壁に立ち、その空気を肌で感じられる特別なルートです。
ロートシュトック北壁ヴィア・フェラータへのアプローチ
山頂に立った瞬間は、「もう終わり?」という少し物足りない気持ちもありました 😆 それでも、冷たい風や雪の残る岩場を歩きながら、世界中のクライマーを魅了してきたアイガー北壁のスケールを想像できたことは、この旅の忘れられない思い出になりました。
ヴィア・フェラータ・ロートシュトック北壁(Rotstock, 2663m)の取り付きまでは、アイガーグレッチャー駅(Eigergletscher, 2320m)からアイガートレイル(Eiger Trail)を歩いてきました。
詳しいアクセスは👉🏻 アプローチ編 で紹介していますが、これから歩く方には、アルピグレン駅(Alpiglen)からアイガートレイルを登り、ロートシュトックを経由してアイガーグレッチャー駅へ抜けるルートがおすすめです。
観光案内所でもらったハイキングマップでは、黄色い点線で示されているのがロートシュトック北壁のヴィア・フェラータ(Klettersteig Rotstock)です。ルートは北壁側から登り、西側へ下山する周回コースになっています。実際に眺めるロートシュトックは、アイガー北壁の隣にある小さな岩峰。もちろん迫力では本家アイガー北壁には敵いませんが、「ミニ・アイガー北壁」と呼ばれる理由は、実際に近づいてみるとよく分かります。
アイガー北壁の歴史を紹介する案内板から、そのまま北壁方向へ登っていくと、ヴィア・フェラータの取り付きに到着します。
振り返ると、眼下にはグリンデルワルトの村、その奥にはヴェターホルン(Wetterhorn, 3692m)やシュヴァルツホルン(Schwarzhorn, 2922m)が広がり、歩き始める前から十分すぎるほどの絶景です。シュヴァルツホルンにはヴィア・フェラータも整備されており、こちらも気になる存在でした。
取り付きへ近づくにつれ、辺りはアイガー北壁の影に入り、一気に空気が冷たくなります。残雪も現れ、夏とは思えない雰囲気。遠くを見ると、ヴィア・フェラータで使う梯子や、先行する登山者の姿も確認できました。「あそこを登るんだ。」そう思うと、自然と気持ちが高まります。
いよいよ登攀開始
ここがロートシュトック北壁ヴィア・フェラータのスタート地点です。目の前にはアイガー北壁そのものは見えません。それでも、巨大な岩壁が落とす影と冷たい風のおかげで、「自分はいまアイガー北壁と同じ岩壁に立っている」という実感が湧いてきます。寒さに耐えながら昼食を済ませ、防寒着を着込んでいよいよスタートです。
最初は梯子を登り、その後は岩場を縫うように右へ左へと進みながら、高度を上げていきます。難易度自体は高くなく、クライミングの経験があれば物足りなく感じるほどですが、もちろんヴィア・フェラータ用ランヤードは必須です。
この日は岩がところどころ濡れており、足元には少し神経を使いました。さらに北壁から吹き下ろす風が思った以上に冷たく、フリースだけでは足りず、持参したハードシェルまで重ね着することに。さすがアイガー北壁。標高以上に、その冷たさが印象に残りました。
そして個人的に一番緊張したのは、雪が残る細い尾根でした。技術的には難しくありません。しかしワイヤーのない雪のナイフリッジを歩くのは、思っていた以上に神経を使います。幸いトレースはしっかり付いていましたが、ときどき足が滑るので油断は禁物。「ヴィア・フェラータ」より、この区間のほうが印象に残っています 😅 その後は再びワイヤーが現れ、梯子を登ればヴィア・フェラータはほぼ終了。せっかくなので、そのままロートシュトック山頂まで足を延ばしました。
山頂からの大パノラマ
山頂に立つと、ベルナー・オーバーラントを代表する名峰、メンヒ(4107m)、ユングフラウ(4158m)を間近に望める大パノラマが広がっていました。ちなみにアイガー(3967m)は、ちょうど私の背後(左手側)にそびえ立っています。
山頂では家族連れやハイカーたちが思い思いに景色を楽しんでいて、どこか穏やかな空気が流れています。ヴィア・フェラータ自体は少し物足りなく感じましたが、雪の上を歩き、冷たい風を受け、アイガー北壁と同じ岩壁に立てたことには十分満足。アイガー北壁に憧れを持つ人なら、このルートだけでも歩く価値があると思います。
下山開始
観光案内所で教えてもらった通り、下山ルートも意外と気が抜けません。フィックスロープを利用しながら慎重に高度を下げていきます。このルートは、アイガー登山者も利用する道なのだそうです。
途中、少しだけ登山道を外れて振り返ると、アイガーグレッチャーが目の前いっぱいに広がっていました。巨大な氷河が山腹をゆっくりと流れ下る姿は圧巻。ユングフラウも美しく、思わず足を止めて景色を眺めます。
グリンデルワルト側を見渡すと、大きく張り出した岩壁からフィックスロープが垂れ下がっている場所もあり、「こんなところにもクライミングルートがあるんだ」と思わず見入ってしまいました。
歩き始めたときは寒くて重ね着をしていたのに、太陽が照りつけると今度は汗ばむほど。アイガー北壁の冷たい影と、午後の日差しの暖かさ。短い時間の中で、まるで別の山に来たような変化を楽しめました。
15時15分、アイガーグレッチャー駅へ無事到着。景色を楽しみながら歩いて約1時間30分。決して難しいヴィア・フェラータではありませんが、「アイガー北壁を歩く」という特別な体験ができる、印象深い一本でした。
さて、このまま帰るにはまだ少し早い時間。せっかくなので、この後はアイガートレイルを歩いてから宿へ戻ることにしました。このあと、一日の締めくくりに見ることになる夕日に染まるアイガー北壁が、この旅で最も心に残る景色になるとは、このときはまだ想像もしていませんでした。
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